「高血圧の基準が変わったと聞いたんですが、本当ですか?」と何人もの患者様から質問がありました。
今回はそのことについてお話しさせて頂きます。
未治療の方の医療機関受診勧奨基準が変わりました
まず基準が変わったのは、「高血圧の治療の基準」ではなく、「医療機関受診勧奨の基準」です。
ですから、現在高血圧で治療中の患者様は特に影響はございません。
特定健診などで、未治療の高血圧の方の場合、以前は140/90mmHg以上は「すぐに医療機関受診を」となっていたのですが、令和6年度より、160/100mmHg以上が「すぐに医療機関受診を」となり、140〜160/90〜100mmHgは「生活習慣を改善する努力をした上で、数値が改善しないなら医療機関の受診を」と受診勧奨のやや緩和が行われました。
このことを取り上げた記事やニュースを見た患者様が、「高血圧の基準が変わったから、そこまで厳しく治療しなくてもいいや」「薬を減らしてもいいのではないか」と思ってしまったのではないかと懸念しています。
あくまで、血圧未治療の方の話であり、高血圧で治療中の患者様や他の既往症がある患者様とは別の話をしているので注意が必要です。
高血圧治療の基準とは
医師が高血圧の治療を行う時に参考にしているのは、「高血圧治療ガイドライン」というものです。
様々な論文、国内外の研究などに基づいて、学会の会議で討論が交わされた結果、推奨されている目標血圧というものがあり、それに基づいて、臨床医は治療にあたっています。
高血圧ガイドラインで推奨されている目標血圧について詳細はこちらのページに記載しておりますので、よかったらご覧下さい。
高血圧の治療基準というのは、かつては”年齢+90”まではOKなどと言われていた時代もありました。
しかし、色々な研究、統計などからその基準の設定では問題があることが分かってきました。
年齢に関わらず、忍容性があれば、140/90未満であった方が、心筋梗塞や脳卒中などの合併症が少ないことが分かってきており、収縮期血圧(上の血圧)が120mmHg未満の方が死亡率や心血管イベントの割合が少ないという大規模臨床試験の結果もあります。
平均寿命や健康寿命が延びたり、生活習慣や環境の変化で血圧の治療基準というのは変わっていくところもあるかも知れませんが、現時点では年々、「血圧は低い方が大病を起こしにくい」という論文や臨床試験の結果が出てきています。
上記の臨床試験や研究について色々な批判的吟味があるのは承知ですが、高血圧で起こす合併症というのは命に関わるものが多いです。心筋梗塞、脳卒中、大動脈解離などは発症してすぐに命を奪ってしまったり、治療が上手くいっても後遺症が残るような”大病”です。
「あの時、もう少し血圧を下げる努力をしていればな…」
「薬をちゃんと飲んでいればな…」
と後悔した時にはもう過去には戻れません。
高血圧の合併症のリスクと言っても、確率論でしかないですから、大病を起こさない場合もあります。ただ、自分自身の人生や命は1つしかありませんから、後悔する余地のない道を選ぶのではなく、なるべくリスクの少ない道を歩んで行って頂きたいなと思っております。
今回のまとめ
・血圧の基準が変わったのは、「未治療高血圧の方の受診勧奨基準」です。
・高血圧治療中の患者様は、特に治療基準の変更は令和6年度にはありません。
・血圧の地道な治療が大病を起こさない未来に繋がります。
■クリニック名
医療法人社団杏音会 土屋クリニック
■院長
土屋 杏平
■所在地
〒116-0003 東京都荒川区南千住7丁目12−15
電話番号03-3806-9029